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「次世代」につなぐために、商慣習を見直す!(有限会社福田織物)

ノウハウ

2019年1月25日 08:15   7

「掛川コットン」って、ご存知ですか。

日本ではさほど有名ではないのですが、欧州の名だたるラグジュアリーブランドがこぞって仕入れている、超実力派の綿織物です。どこが超実力派なのかは、のちほど。

その呼称から想像がつくと思いますが、生産地は静岡県掛川市で、それも一軒の小さな町工場です。この町工場、福田織物といいます。

福田織物の特徴は、いくつかあります。

同社は元来、昔ながらの機屋(はたや)として営みを続けてきた町工場です。機屋というと、大手の織物問屋から糸を支給されて、仕様書で指示された通りに織って納入するのがもっぱらの仕事であり、収入は作業工賃=手数料だけであるのが常でした。
つまり、下請け工場なのですね。ところが、この福田織物は、20年前から織物の自主開発に臨んでいます。国内における業界の慣行を打ち破ったということ。

次に従来、日本国内では機屋から直接、アパレル企業やデザイナーに製品を販売することはまずなかった(理由は上記の通りで、問屋を介するのが習わし)のですが、福田織物の場合には、小さな機屋であるにもかかわらず、直接取引に踏み切っているところ。それも、冒頭で綴ったように、海を越えて海外のラグジュアリーブランドと契約を結んですらいます。

最後に……。これは福田織物を訪ねるとすぐわかるのですが、働いている社員が若い。大半の機屋では従業員の平均年齢は60歳を超えているそうなのですが、同社は30歳代。

この3つの特徴には、深い関連性があると聞きました。どういうことなのでしょう。

決断直後は、売上高が激減したが…

現在の社長が両親から事業を引き継いだのは、1990年代半ばのことでした。

社長は、「指示通り、ただ織って納めるだけ」という、機屋をめぐる従来の商慣行に大きな疑問を抱き、それを打破することを決断します。

「イタリアなどでは、機屋がアパレルに直接、織物を販売しているのに、日本ではそうなっていないのはおかしい」

そう感じていたからです。問屋が糸を用意して、その以降のままに織って納めるだけの業務を続けていると、いくつもの問題が解消しないままです。

まず、売り上げは手数料だけですから、いつまで経っても大きな利益は得られない。またなにより、織る技術をせっかく有しているのに、それを自律的に活かし切る機会は未来永劫、訪れない。
その結果……若い世代に魅力ある企業にはなりえませんから、従業員はどんどん年老いていき、次世代を担ってくれるような有能な人材は確保できない。

「ウチが製造する織物のわずか1%でもいいから、この壁を突き破りたかった」

当時の思いについて、社長はそう振り返ります。

リスクは当然あります。しかし、代替わりした福田織物が一歩を踏み出すには、このタイミングしかなかった。社長はアパレル企業に直接売り込みにかかります。

しかし、売れなかった。それはそうです。アパレル企業にとっては福田織物を直接取引するメリットはありませんからね。これまで通り、問屋を介して織物を仕入れればいいだけの話です。

社長の目論見は外れました。代替わり前の同社の売上高は約2000万円程度あったそうですが、社長が継いだ後の1990年代後半には1000万円ほどに落ち込んでしまいます。
ここからどうしたのか。業界の慣行にひたすら従っていた、先代までの経営手法に戻すのか、それとも……。

社長は「なぜ直接取引できなかったか」を顧みました。それは単に営業力が足りなかったということではない。そう考えました。

「アパレル側がウチと直接取引したくなるほど、独自性のある織物を出せていなかったからだ」

代わりの効くような製品ではダメなんだ。そんな製品であれば、アパレル各社は当然、信用の置ける問屋で仕入れ続けてしまう。そういうことですね。

ここから、福田織物の奮闘が始まりました。

極細糸を織る技術をモノにした

転機は突然訪れました。国内での展示会にブースを出展していた折、それまで取引すらなかった海外のデザイナーが、「これと同じものを織れますか」と声をかけてきました。デザイナーが手にしていたのは、1枚の古いハンカチ。それは、機屋である社長ですら驚くほどの、ものすごく柔らかな綿織物でした。

できるかどうか、わかりませんでした。それでも社長は引き受けます。

このハンカチの風合いを再現してみせるには、預かったハンカチそのものにハサミを入れて、中身を分析するしかありません。そして社長は、このハンカチをハサミで切ってしまいます。

「サンプルのハンカチを切ってしまったら、もう作り切るしかない」

不退転の作業だったのですね。

ハサミを入れ、いろいろと調べ尽くした結果、判明しました。この古いハンカチを再現するには、日本に当時存在していなかった極細の綿糸「100番手」を手に入れるしかない。
それはスイスにあることまで突き止めることができました。しかし、織れない。現代には、極細の「100番手」の糸を織る技術はなかったのです。

福田織物の社長と職人が総がかりでも1年かかりました。最後に頭に浮かんだのは、織る前に糸をねじるというアイデア。その結果、福田織物は、現代で「100番手」を使った綿織物を作り上げた先駆者となりました。1990年台後半当時、よそのどの企業もなしえていなかった技術をモノにできたわけです。

これで「独自性ある綿織物」を開発できた。では、いよいよ同社はアパレル各社との直接取引を急伸させて、売上高を反転できたのか。いや、話はそんな簡単ではありませんでした。

国内のアパレル各社に、極細の「100番手」の織物サンプルを持ち込んでも、バイヤーの反応は冷たかったのでした。「確かに柔らかな風合いだけれど、いったい何に使うの?」「機屋の単なる道楽じゃないの?」という声が返ってきたといいます。

だったら、と、福田織物の社長は、欧州に飛びます。先に述べましたように、欧州の業界では機屋が直接、アパレル企業やデザイナーと取引する風習があります。「100番手」の価値を欧州でなら理解してもらえるかもしれない……。

その判断は見事に当たりました。フランスのデザイナーがすぐさま取引を持ちかけてくれ、そこから複数のラグジュアリーブランドとの契約も果たしました。状況は劇的に変わったのでした。

そうした評判が日本に逆輸入されると……面白いものですね、それまで、あれだけそっぽを向いていた国内企業もやおら振り向くようになったというわけです。

どん底状態を経た福田織物ですが、現在では2億円を超える売上高となっています。

「気まぐれ手ぬぐい」発売の理由

私が福田織物のことを知ったきっかけは、今から数年前、同社が公式ネットショップだけで販売している「気まぐれ手拭い」の存在を目にしたことでした。

値段は2160円と、手拭いにしては高い。しかも、この製品、名前の通り、あまりに気まぐれなんです。なんだこれは? と興味が沸きました。

なにが気まぐれなのか……。公式ネットショップでいつ販売になるか、わからないんです。
それに年に数回ほど販売となっても、すぐに完売で品切れ状態が続いてしまいます。まさに気まぐれな感じでしょう。

この原稿を執筆している折にも公式ネットショップにアクセスしてみましたが、ああ、やっぱり品切れでした。
http://fukuda.ocnk.net/product/180

しかもですよ、タイミングよく販売しているのを見つけて注文できたとしても「どんなサイズの、どんな生地の、どんな色合いの手拭いが届くかはお楽しみです」というんです。気まぐれに過ぎませんか。

勘のいい読者の方は、きっともうおわかりですよね。この「気まぐれ手拭い」という製品、福田織物が製造している織物の、いわば余り布が出たときだけ、公式ネットショップでそっと少数限定販売される、というものなんです。

かつて福田織物は、糸を仕入れるのに難儀したほど、経営が厳しい状況に落ち込んでいました。現在は好調ですが、だからと言って、一所懸命に製造した布をおいそれと捨ててしまっていいのか、そういう疑問から生み出された製品だというのですね。

この「気まぐれ手拭い」、公式ネットショップに出せば、数日で売り切れとなるそう。つまり売れ残りはここまでゼロといいます。かなりの人気製品なのですが、メディアにはほとんど露出させない、大手ショピングモールからの引き合いがあっても断っているらしい。それはまたどうしてか。

「気まぐれであるからいいんです。余り布ひとつも大事にするという原点に立ち返るための存在ですから」

なるほど。消費者にすれば、欧州で高い評価を獲得している掛川コットンを身近なものとして使えるし、同社にすれば原点を忘れないための大事な製品であるということなのですね。

美大出身の新卒社員も採用できた

福田織物の挑戦は今も続いています。

数年前に開発できたのが、「300番手単糸」の綿織物です。その材料となる糸は、中国の新疆ウイグル地方で栽培される綿から、数年に1回しか採れないプレミアムな超長綿で紡績されています。
貴重で、ごくわずかな数量であり、糸自体が入手困難です。さらに言えば、この極細糸を織るというのがまた、困難を極めます。
少し引っ張っただけで切れてしまうそう。現時点で「300番手単糸」を織るのを実現できているのは同社だけと聞きました。

できあがった織物は透けるほどの美しさで、触感はシルクやカシミアを超える、と表現しても差し支えないのではと、私には感じられました。ストールとして首に巻くと、「春風をまとっているような肌触り」と言いたくなりましたね。ちなみに、このストールは10万円。それでも原価ぎりぎりで、儲け度返しの値段らしい。

こうして、独自性あふれる製品を世に出し続けると同時に、福田織物は若手社員の採用と育成に舵を切りました。前途ある次世代の担い手に機屋で働いてもらうには、魅力あふれる製品を出すしかない、そして、製品販売によって得られた利益を人件費にしっかりと回す、という考えですね。

実際、同社は先に触れたように平均年齢が30代と、この業界にあって異例というほかない世代構成を果たせています。独自性ある製品づくりに臨み、しかも欧州との取引にも引き続き積極的だからこそ、人材が集まるのですね。
最近では、東京から美大出身の社員が新卒で入社してもいます。地元の掛川出身ではなく、わざわざ福田織物に入るために、この地に移り住んだそうです。

代替わりしてから20年。社長は業界の慣行を打破し、さらには機屋業界の泣きどころであった高齢化の問題に対しても答えを出しました。

それは、社業を継ぐ場面で抱いていた疑問をそのままにせず、さらには代替わり直後に売上高が落ち込んだ際にも果敢に攻め続けていたからこその話ではないでしょうか。

すべての業界、すべての企業で、この福田織物のような大改革が叶うとまでは申し上げられないとは思います。でも、これだけしがらみの多かった古い業界にあって、ここまでの伸長を遂げた同社の話、参考になるところは少なくないと感じませんか。

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